雨乞いの竜
 
 
 摂津の国 水尾村には 雨乞いの竜を祭る風習があった
 
 
 むかし むかし の 水尾村

田んぼが 一面 広がって

サギが 飛んで 蛍が 舞って

村人の わらいごえ

 
 
 池や 川には たっぷりの 水

さんさんと 輝く 太陽

草取り むしとり こやしやり 

田んぼしごとは たいへんだ

 
 
 ある年 雨が 降らない日が 続いた

川上の村では 水門を閉じた


水尾村も 川下への 水門を 閉じた

村と 村は 水の取りあいで にらみあった
 
 
 
 次の日も 次の日も 日照りが 続いた

村人は くすのきさんに 集まった

「もう 水尾池にも 高瀬川にも 水がない」 


「田んぼは からから どうしよう」
 
 
 村人 空を見ては ためいき 

「雨 ふってくれんかのお」


「雨 ふってくれたらなあ」

「隣村に 水を とられるな」

 
 
 次の日 村の長老が 語った

「昨夜 大きな 大きな 竜が 夢に出た」

「竜が 私に向かって ささやいた」

「竜の姿を 作れ 竜の姿を 祭れ」 と

 
 
 村の長老が 竜の言葉を 語った

「村人よ 大きな 大きな 竜を 作れ」

「供物を 供えよ 鉦や 太鼓を たたけ」 

「望みどおり 雨を 降らせてやる」 と

 
 
 村人みなで わらや 葉っぱを 集めた  

長い胴体は わら 鱗は 葉っぱ  

目と 歯は なすび

大きな 大きな 竜を 作った

 
 
 竜を くすのきさんに まきつけた

毎日 果物や 酒を 供えた

毎日 鉦や 太鼓を 叩いた

「竜よ 我等の願いを かなえてくれ 
          
雨を 降らせてくれ」

 
 
 天に 向かって 祈った

昼も 夜も 祈った

「雨 雨 雨  降ってくれ」

「竜よ 我等の願いを かなえてくれ 雨を降らせてくれ」

 
 
 ギラギラ 日の照る青空に 真っ黒な雲

ぽつりぽつりと 雨 そして 大粒の 雨

「わあ〜 竜が 雨を 降らせた」

「わあ〜 竜が たんぼに 水くれた」

 
 
 じゃあじゃあ じゃあじゃあ

雨 雨 雨 雨 雨

田んぼ よろこぶ かえる よろこぶ

おとな よろこぶ こども よろこぶ

 
 
 それから 毎年 水尾村では 

くすのきさんに 竜を まきつけて まつった

果物や 酒を 供えた

鉦や 太鼓を 叩いた

 
 
 今の水尾 たんぼは なくなった

水尾池は 埋め立てられて 公園になった

川には アヒルと鯉がいる

水尾の 竜は 天に 帰って 星になったそうだ